夢を 見る。
何の夢か?分からない。
黒と、赤と・・・・・目、三つ目の何かが、視界一杯に広がっている。
あとは、男が一人。
これは 夢だ。
「・・俺が・・俺が負けるというのか・・?」
のどの奥から溢れる血が喉に絡み、その呟きはほとんど聞き取れないほどくぐもっている。
それでも、男は手にする片刃の剣を握り締め、かすむ双眼で相手を睨みつけ、
不適に笑みを漏らすと小さく首を振った。
「否・・そんなはずはない・・」
―奴にできて、俺にできぬ筈が。
幾度も剣を振る中で、幾度も繰り返し呟いた言葉は、最早言い聞かせているようにも聞こえる。
けれど、決して諦めぬその強い声音が、
血の海を蹴り、刀を握り締め、咆哮をあげる姿は、同情も悲痛も、甘い想いを抱かせない。
「俺は・・・―折れない」
折れない。
決して、折れない。
折れはしない。
何があろうとも決して―
信念は 折れはしない。
奥歯をかみ締めて立ち上がり、彼はあらゆる限界を見てとてるというのに、それでも、
再び咆哮をあげた。
「うおぉおおぉっ!!!」
ソレが何度目の攻撃だったのか、分からないけれど。
ピ・・――――
ピピッピピッ・・。
「・・・・・・っ!?」
声もなく驚きで目が覚める。
見慣れた天井だ。
特別汚れているわけでもないが、綺麗とはお世辞にも言いがたい自室の天井。
俺は一つ大きく息をはいて額に流れる汗を手の甲で拭うと、起き上がりもせず仰向けのまま、
頭上で鳴っている目覚まし時計を乱暴に叩いて止めた。
また、あの夢・・か。
あの夢、とはいっても、実のところどんな夢を見ていたのか余り覚えては居ない。
ただ、漠然と『何時もと同じ夢』と感じるだけだ。
見ている間はあれだけ鮮明なのに。
例えるならそう、映画館の大スクリーンに良音質迫力の1.5chサウンドバイブレーション付き!ってところだな。
起きてしまえば、精々覚えているは、誰かが何かと戦っている・・それと、最後に砕け散る・・何か―そう、多分アレは剣だ。
戦っている誰かが持っている剣。
ソレが砕けた瞬間、まるで自分の魂すら砕けたかのような・・感覚。
それだけ。
「・・なんなんだ・・?いつもいつも」
夢が何かを俺に伝えようとしているのか?
・・だったら目が覚めても忘れないようにしてくれって話だ。
俺は漸く起き上がりベッドへ座りなおすと、鈍い振動が残る右腕に視線を落とした。
「・・・こっちも何時もどおり・・か」
自嘲めいた笑みを零す。
俺の右腕は人の腕じゃない。
まぁ、正確には何に部類されるのか知らないが、俺が出来る表現じゃ「悪魔の手」が一番しっくり来るだろうか。
うろこのような外皮に鈍い感覚。
オマケに時折発光までしてくれる。
最初は右腕の先端が少しずつ変色していて、変な病気じゃないかと恐ろしくもなったが、
ココまで様変わりしてくれると、少なくともこの島の医療では治せない代物だと思う。
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